1966年に静岡市(旧静岡県清水市)で起きた「袴田事件」で死刑が確定し、2014年3月の静岡地裁の再審開始決定で釈放された袴田巌元被告(84)の特別抗告審で、最高裁第3小法廷(林道晴裁判長)は22日付で、再審開始を認めなかった18年6月の東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す決定を出した。「高裁決定は、弁護側が提出した新証拠について審理を尽くしたとは言いがたく、著しく正義に反する」と述べた。
裁判官5人のうち3人の多数意見。高裁決定の取り消しは全員が一致し、さらに2人は「再審を開始すべきだ」との反対意見を述べた。再審請求審で反対意見が付くのは初とみられる。小法廷は、刑の執行停止と釈放については判断を示さず、執行を停止した地裁決定の効力が維持されるため、袴田さんは身体拘束を解かれた生活が続く。
最大の争点は、事件から1年2カ月後、現場近くのみそタンク内から発見された「5点の衣類」に付着した血痕への評価。確定判決は、これを犯人が着ていた衣類と認め、袴田さんの血液が付いているとして有罪とした。弁護側は08年に始まった第2次再審請求審で、「血痕が袴田さんや被害者と一致しない」とするDNA型鑑定を新証拠とした。地裁は鑑定の信用性を認めて裁判のやり直しを決めたが、高裁は逆に信用性は乏しいとして退けた。
小法廷は、衣類は40年以上、常温で保存され、事件関係者以外のDNA型で汚染されている可能性もあると指摘。血液をみそに漬けるとDNA型の分解が進むとする実験結果もあるとし、血液は残っていても極めて微量で劣化している可能性が高いとした。こうした事情を踏まえると、弁護側のDNA型鑑定は個人を識別する証拠価値はないと結論付け、高裁と同様に信用性を認めなかった。
一方で弁護側は、血痕が付いた衣類をみそタンクに漬けた再現実験も新証拠として提出しており、小法廷はこの点に着目した。
みそ漬けされた血液は黒褐色に変色していき、実験によれば6カ月後には黒に近い色となって赤みが完全に消えるのに、5点の衣類の血痕には赤みが残っていたとする記録があった。小法廷は、袴田さんが逮捕された後で衣類がみそタンクに入れられた可能性があると指摘。みそタンクに漬けた衣類の血痕の色がどう変化するかについて、高裁では専門的な知見に基づく検討がなされておらず、審理が尽くされていないと判断した。差し戻し審ではこの点について改めて審理される。【近松仁太郎】
小川秀世・弁護団事務局長の話 非常にうれしい決定。早く再審開始の結論にもっていけるのではと大いに期待している。
斎藤隆博・最高検刑事部長の話 主張が認められなかったことは誠に遺憾。決定内容を精査し、適切に対処したい。
決定の骨子
・東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す。
・現場近くのみそタンクから発見された「5点の衣類」に付いた血痕のDNA型鑑定に個人を識別する証拠価値はない。
・みそタンクに漬けた衣類の血痕の色の変化について、専門的な知見に基づく審理が尽くされていない。
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